2011年12月23日

よるくも(1)(2) / 漆原 ミチ

よるくも 1 (IKKI COMIX) よるくも 2 (IKKI COMIX)
よるくも(1)(IKKI COMIX)
よるくも(2)(IKKI COMIX) / 漆原 ミチ

街・畑・森、三つに分かれた階層社会。「畑」で母親とともに食堂を営むキヨコは、常連客の中田に頼まれ、青年・小辰の面倒を見ることになる。「森」出身の小辰は、無口でどこかぼんやりしていて、キヨコは気に掛けるようになるのだが、小辰は中田が仕込んだ暗殺者よるくもだった。

裕福な者が住む「街」と貧しい者たちが住む「畑」、その下にある「森」
生まれ育った居住区による差別化がなされている世界。そんな中訪れる人間を区別なく受け入れるキヨコと母の営む中岡飯店はとても繁盛している。誰とでも分け隔てなく話す母と、明るく可愛らしい娘。キヨコの飯はみんなもので、母娘はみんなにとっての癒しだった。

自分たちは人間ではないと思うことでしか耐えられないような出来事を通過して生き残ったのが中田だ。彼は荒磯精肉店の店長であり、荒磯の裏の仕事を引き継ぐ担当でもあった。行き場を失くした子供たちを使い捨ての暗殺者に育て上げ、汚い仕事を一手に引き受けている。そうして出来上がった一人が小辰=よるくもだった。よるくもには痛覚がない。字の読み書きもできない。感情がない。命令に従って暗殺を行うが、行為自体に喜びも苦痛も感じない。感情を殺しているのとも違う。楽しい悲しいといった言葉の意味は知っていても、そもそも彼の中に愉快や不快といった感覚すらない。倫理や社会といった判断基準を持たないよるくもは、ただ命令どおり仕事をしている。

母親が亡くなり、小辰と中田と暮らすことになったキヨコ。
語彙力の足りない小辰の言葉は、故に純粋なものに聞こえる。小柄でちゃきちゃきした普段元気なキヨコは、思わず小辰へ弱さを吐き出す。感情に乏しい青年が明朗快活な少女と出会い人間としてのなにかを取り戻していく物語。であれば良かったのだが、この作品には今のところそんな救いは一欠けらも存在しない。小辰によって救われたキヨコが、小辰によって地獄へ突き落される。

キヨコの母が隠していた差別意識、中田の憤り、周囲の人間たちの悪意のない言葉。善良な人も存在するが、狂気に満ちたこの世界では、わずかばかりの善意など吹き飛んでしまう。生きること、食べること、殺すこと。キヨコの目を通して描かれる「森」の風景の中に、それらが詰まっている。
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